美作さんの指は、魔法の指だ。 美作さんはアクセサリーを作るお仕事をしている。美作さんのアクセサリーは、美作さんが作った変わった形の硝子と、ストーンを組み合わせて出来ている。 美作さんのアクセサリーは、綺麗で、大人っぽい。可愛いんじゃなくて、綺麗。例えるならば、お姫様っていうよりは、お妃様みたいなアクセサリーだ。 美作さんの耳には、美作さんが作ったピアスがきらりと光っている。赤っぽい小さな硝子のついたそのピアスは、中性的な美作さんにぴったりだ。 美作さんのアクセサリーは高値で取引されているらしい。オーダーメイドは年単位で待つことになるらしい。だけど、美作さんは自分と仲のいい人には「残り物で作ったから」とアクセサリーをぽんぽんあげてしまう。 「自分が好きな人達が自分のアクセサリーつけてくれるのって嬉しいよね」 美作さんのそういうところが好きだ。 ママもそんな美作さんのことが好きだ。美作さんにプレゼントされたアクセサリーをたくさん持っている。 一度、ママが持っている美作さんが作ったネックレスをつけたことがある。ママは美作さんからのプレゼントを大事にしているから、黙ってこっそりとつけた。 美作さんがクラック水晶って言っていた、中にヒビが入った小さな透明の石と、それによく似せた硝子がきらりと光る綺麗なネックレス。ママがつけている時は、たまに光を受けて輝くさまがとても大人っぽくて、綺麗だった。でも、私には似合わなかった。ママが付けると鎖骨の辺りで綺麗に光るチェーンも、私がつけると長かった。シンプルで大人っぽいデザインなのに、私が付けるとただただ地味になりさがった。 美作さんに申し訳なくて、すぐに外した。 私はまだ、子どもだ。改めて思った。 はやく大人になりたい。美作さんのアクセサリーが似合う大人になりたい。 十歳の誕生日に、美作さんが私にアクセサリーをくれた。どうせ似合わないし、と思った。似合わないのにつけるなんて、美作さんに失礼だと思った。でもやっぱりプレゼントされたことが嬉しくて、わくわくしながらラッピングされた箱を開いた。 あけてみてびっくりした。そこにあるネックレスは、いつもの美作さんのアクセサリーとは違った。いつもみたいに綺麗で、きらりと光る石や硝子がついていたけれども、いつもとは違う。いつもの美作さんが使わない淡いピンクの色合いをしていた。ハートの形をした硝子もいつもよりも大きめだった。 これはいつもの綺麗なアクセサリーとは違う。これは、 「かわいい」 私が呟くと美作さんは笑った。 「よかった。かわいい、は難しいよねぇ」 魔法の指に煙草を挟みながら美作さんが呟く。 「難しい?」 「難しいよー。よくわかんないなぁ、おじさんには」 骨っぽい魔法の指で頭をかきながら美作さんがぼやく。 おじさんなんかじゃ、ないのに。おじさんなんて言わないで欲しいのに。 「つけて」 ネックレスを渡すと美作さんは優しく微笑んで、 「後ろ向いて」 ネックレスをとめてくれた。チェーンはゴールドで優しい色をしていた。留め具がハート型をしているのも、全部かわいい。 鏡を見ると、そのネックレスは私に馴染んでいた。かわいい。かわいい。嬉しくなる。 「美作さん、ありがとう」 「どういたしまして。うん、かわいいね」 「……ねぇ、十年後の誕生日にも作ってくれる? 次は、指輪。左手の薬指の」 そうおねだりすると、美作さんは驚いたように目を見開いたあと、小さく笑った。 「どうだろうねぇ。その時にはもうおじいちゃんだからなぁ」 「ママの一個下なんだから、十年経っても四十前でしょう? 大丈夫だよ」 私は強気に言い切る。 だからママと再婚したりしないでね? 美作さんは美作さんでパパじゃない。私のパパは、死んだパパ一人だ。美作さんは美作さんで、私の旦那様になればいい。 美作さんは困ったなぁって呟くと、 「似合うぐらい大人になったらね」 その魔法の指で私の頭を撫でた。 美作さんの指は、魔法の指だ。 綺麗なアクセサリーを多数生み出す。たまにはかわいいアクセサリーも。 そして私の顔を真っ赤にさせる。 |