二日後、先に沙耶に真緒を預けてきた隆二は、待ち合わせ場所で円を待っていた。
 ぼんやりと人波を眺め、最近聞き慣れた足音に視線をそちらに向ける。交差点の向こうから、円が歩いてくるところだった。
 っていうか、あれだけ言ったのに、また高いヒールの靴を履いている。
「おまたせ。……ねぇ、足音かなにかで、私のこと気づいてた?」
 こちらに近づくのを眺めて待っていたら、目の前にやってきた円はちょっと顔をしかめて尋ねてきた。
「え? ああ」
 そりゃあ気づくだろう。こちらは人よりも鋭い五感を持っているし。
「そうよね。あなたは、変に思われるかもみたいなこと、気にしないわよね」
 なんだか苦虫を噛み潰したような顔で、一人納得している。
「何が?」
 とりあえず、褒められたわけじゃないのだけはわかった。
「こっちの話」
 だが円は説明しようとせず、肩をすくめるにとどめた。
「車、こっち」
「ああ」
 歩き出した彼女についていく。その際、ふっと思い出して、
「なあ、俺、楽しそうか?」
「はぁ?」
 怪訝な顔をして彼女は振り返る。そして上から下まで隆二を眺めて、
「今日も、大変つまらなさそうに見えるけど?」
 ずいぶん失礼な評価をくだしてきた。だが、隆二はそれに安心する。
「そうか」
 楽しそうに思われているのでなければ、それでいい。
 変なの、と首をかしげて、円がまた歩き出す。その少し後ろを黙ってついていき、
「あ、ちょっと待って」
 小さな本屋の店先で足を止めた。
「何?」
「ちょっと」
 言いながら財布を出し、
「百円玉、持ってる?」
 中身を確認して、円に問いかける。首を傾げたまま、円は財布を取り出し、
「一枚ならあった」
 それを隆二に手渡した。
「ありがとう。借りる」
「あげるわよ、百円ぐらい。ってか何、ガチャガチャ?」
 軒先きに数台並んだガチャガチャの機械。その一つに、隆二は自分の分と合わせて二枚の百円玉を入れる。
「美少女四字熟語シリーズ、ラバーストラップ?」
 書かれた文字を読んだ、円の語尾が怪訝そうに跳ね上がる。
 真緒の好きな特撮ヒロインものだ。この前スマホで見ていた動画も、これ関係のものである。
「真緒がこれ、全部揃えようとしてるんだ。だけど、うちの方ではもうなくって」
 ハンドルを回す。がこん、と音がしてカプセルが落ちてきた。
「中野にでも行けば、バラで売ってるんじゃないの?」
「ガチャガチャを中身わかっている状態で買うのは、夢がないからダメらしい」
 取り出したカプセルの中を覗き込む。それから、機械に貼ってある紙と見比べ、
「よし」
 小さく頷く。ここに載っていないもの、シークレットだ。ようやくこれで揃った。
「……なんかわかんないけど、よかったわね」
「ああ、ありがとう。……ついでにこれ、カバンに入れてくれると嬉しい」
 ズボンのポケットに財布とケータイをしまっているだけで、手ぶらの弊害がここに出た。
「はいはい」
 円がカプセルをカバンにしまう。
 再び連れ立って歩きながら、
「私、あなたの感情はイマイチ読み取れないんだけど、今は楽しそうだなって思うわ」
 軽く苦笑すると、円が言った。