夕暮れ時、あの神社でかくれんぼをしてはいけないよ。
夕暮れ時、あの神社でかくれんぼをしたならば、神隠しに遭うんだよ。
だから、
――夕暮れ時、あの神社でかくれんぼをしてはいけないよ。


“もう いいかい?”


 少年は数を数え終わると、声を大にして叫んだ。
 返事はない。
 聞こえなかったのかと思い、もう一度。
「もう、いいかい?」
 返事はない。

   いつもならば“もういいよ”もしくは“まーだだよ”と返ってくるのに。

 困った少年は辺りを眺める。
 もう一度。
「もう、いいかい?」
 返事はない。

 そうだ、きっとみんなわざと返事をしないんだ。
 どこかに隠れた状態で、僕が慌てるのを見て楽しんでいるんだ。そんなの酷いよ!

 少年はそう結論づけると、友達を探し始めた。
 探して、
 探して、
 探して、
 探して、
 、
 、
 、

「もう、いいかい」
 途方に暮れて小さく呟く。
 呟いてから、いつも祖母に言われている言葉を思い出した。
 “夕暮れ時、あの神社でかくれんぼをしてはいけないよ。神隠しに遭うから”

 少年は、怖くなってその場にしゃがみこんだ。

「もういいかい?」

 呟く。

 みんな、消えてしまったのだ。
 そう考えたら、怖くて怖くて仕方がなかった。

 男の子は、茂みから顔を覗かせた。
 待てども待てども返事はない。
 男の子は、悩んだ末立ち上がると、そばの木陰の子を見た。
「なぁ、あいつ遅くないか?」
「遅い」
「さては、俺達がどこにいるかわからなくてべそかいてるんだ」
 二人は顔を見合わせると、笑い、鬼の少年を探し始めた。

 男の子は、探している途中でふと悪戯心で言ってみた。
“もう、いいかい?”