侍女は慌てて階段を下りていた。
 彼女がお世話をしている姫様の相手をしていたらついつい、遅くなってしまった。
 姫様は今年で7歳。少し我儘だけれども可愛い姫様で、侍女は彼女が大好きだった。
 そんな姫様がベッドの上で「ご本を読んで?」と言ってきたのだ。侍女に断れるわけがない。
 そうこうしているうちに侍女達の、この城ではたらく者達の会議の時間になってしまった。会議といっても今日一日にあった出来事を話すだけのものなのだが。
 だけれども、彼女はそこで姫様の話をするのが好きだった。
 他の侍女達から今日はこんなことをして可愛かったというのを聞いたり、逆に話したり。それが好きだった。
 だから彼女は慌てて階段を下りていた。

 姫様の寝室は城の中でも一番高い塔の最上階にあった。
 それは姫様に悪い虫がつかないようにと、国王陛下がしたことだと侍女は聞いている。
 姫様に俗世間の出来事を教えるのは侍女とて忍びなかったが、遊び盛りの姫様を狭い塔に閉じこめる陛下の気が知れなかった。

 塔の階段は螺旋状になっていて、長く、長く続いている。狭い上に暗いので、蝋燭は欠かせない。

 ぱたぱたと、侍女が階段を下りる音だけが響いている。

 途中で侍女は立ち止まった。
 そろそろ下についていい頃なのに、いつまで経っても下につかない。
 不思議に思いつつ、階段を下りる。
 歩きながら手元の蝋燭を見て驚いた。新しい蝋燭だったのに、ろうが残り少しになっていた。
 いい知れない不安に駆られて、階段をかけ下りる。

 下りる。
 下りる。
 下りる。

 どんなに下りても下につかない。

 ついに蝋燭も消えてしまった。

 暗闇の中、侍女は階段を下りた。
 下りた。
 下りた。
 下り続けた。

 下りながら侍女は泣いていた。

 そして、ついに座り込んだ。

 座り込んで泣き出した。

 下を見ても上を見ても、あるのはただ階段だけだった。ふと侍女は、この塔にまつわる話を思い出した。
 この塔から帰ってこなかった侍女がいるという。
 その侍女は、遅くまで姫様の相手をしていて、結局帰ってこなかったという。

 ああ、あれはこういうことだったのかと思いつつ、侍女は目を閉じた。