「どうして、みんな反対するのかしら? ひどいのよ、みんな揃ってやめとけなんて」
  彼女はあたしに向かって勢い込んで話す。
「そりゃね、初めてあったときに、目と目があって運命を感じなんて、自分でもなんだかなぁなんてちょっとは思うわよ、それでもっ! それでも、酷いじゃない。あんな男やめとけなんて。みんな彼がどんなにいい人かわからないのよ」
 マシンガントークは止みそうにない。
 あたしはしばらくは大人しく彼女の顔を見ていたけれども、途中で飽きた。
 喉が渇いたと覗いてみた入れ物は、空。
「彼、本当にかっこいいのよ。時々悪魔みたいにひどいことするけどね、それがまたいいの。
 彼らしいと思わない?」
 そんなことどうでもいいから、あたしに何か飲み物を頂戴?
 そんなこと言えるわけがなく、しょうがなく目で訴えることにする。
「それに時々、小さな子どもみたいに甘えてくるのよ。怖い外見してるけど、本当はとっても優しくてね、子どもの面倒とかよくみるし、そうそう、猫も飼ってるんだって」
 彼女のマシンガントークは続く。
「そう、それで、明日会う約束したのよ。ねぇ、どの服がいいかしら」
 そういって、ベッドの上に置いてあった何着かの服をみてみて〜と広げる。
 あたしにどうしろというの?
「彼、どんな服が好きかしら?」
 それから思い出したように、彼女は口元に手を当ててふふっと笑った。
「この間映画を見に行ったときはね、彼、途中で寝ちゃって。その寝顔がまた可愛かったのよ」
 あたしは空の入れ物かと彼女の顔を交互に見比べる。いい加減気づいて欲しいんだけれども。

 電子音。
「あ、メールだ」
 彼女は携帯をとると、嬉しそうに笑う。
「ねぇねぇ、彼からだ」
 そういってあたしにそれを見せる。
 あたしは、もう一度入れ物をて彼女を見る。ダメだわ、ちっとも気づかない。

「にゃ〜」

 あたしは彼女に向かって鳴く。
 彼女はあたしをみて、それからあたしの視線の先にある入れ物を見て、ああと頷く。
「ごめんね、リン。今、牛乳入れてあげるからね」
 彼女はあたしの頭を撫でると、入れ物に牛乳を注ぐ。
「そうだ、リン。今度彼が飼っている猫にあってみない? お友達になれるかな?」
 彼女はあたしを撫でながら、携帯の画面をみて笑った。

 あたしは勝手にしてくれという意味をこめて「にゃ〜」と一つ鳴いた。