第六章 名誉毀損で告訴します。
レポート、レポート、発表、レポート、発表、レポート、レポート、中間試験、レポート。気づいたら、こんな感じで、後期日程が過ぎて行く。
コートが手放せない季節となった。
年の瀬。クリスマス。
「クリスマスイブ、なのに」
年内最後のレポートを提出し、あたしはちょっとため息をついた。
「何故、授業」
「どうせ予定ないんだからいいじゃんかー」
治君が横から言ってきた。
「リア充め」
睨む。治君はちょっと笑って、
「むこうが仕事だから意味ないよ」
肩を竦めた。
それにあたしは黙るしかない。そっか、治君のカノジョさんは就職しているのか。色々大変なんだろうな。
「そんな杏子ちゃんに、はいどうぞ」
目の前に小さい袋が現れる。その袋の先を辿って顔を上に向けると、サクちゃんが微笑んでいた。
「メリークリスマス。クッキーだけど」
「サクちゃんっ!」
手を叩き、それを受け取る。
「わー、サクちゃんありがとー!」
「はい、前田君も」
「うわ、マジ? 手作り? さすがー!」
治君もそれを受け取り、
「誰かさんとは違うなぁ!」
あたしのことをちらちら見ながら言って来た。
「むー、あたしだってできるもん」
「どうだか」
「じゃあ、バレンタイン覚えときなさいよ!」
「はいはい」
くすくす笑いながらサクちゃんがあたしの隣に座った。
「サクちゃん、ありがとー」
「どういたしまして。久しぶりにちょっと作ってみたかったから」
反対側の隣では、治君が早速食べている。
「ん、おいしいー」
「みんなの分作ったの?」
「ううん、適当。杏子ちゃんと郁子さんには渡して、あとは今日会った人から順番に渡そうと思って」
「わーい」
「あ、じゃあ、俺ラッキー」
ごちそうさま、と治君が手を合わせた。
「あたし、あとでおやつに食べるー」
「うん。あ、郁子さん」
サクちゃんが教室に入って来た郁さんのところにクッキーを持って行く。
それと同じぐらいに池田君が教室に入ってくる。
サクちゃんは池田君に気づかないふりをして、池田君もサクちゃんの方を見ない。
「……結局、あの二人微妙なままだな」
治君がこそっと耳打ちしてきた。頷く。
あれからずっと、二人は極力関わらないようにしているみたい。
サクちゃんもそれは気にしているみたいで、
「大人同士の付き合いのはずなのにね、子どもみたいなこじれ方してる」
と苦笑していた。
まあ、色恋沙汰は一度こじれるとどうにもならないからなーと、身を以て体感したことをしみじみと思っていると、
「池田君」
サクちゃんが池田君の名前を呼び、
「クリスマスだから、みんなに」
と、みんなをやけに強調して、
「クッキーつくってきたの。よかったら」
と、そのクッキーを差し出した。
池田君は、強張ったような変な顔をしながら、
「……ありがとう」
と、それを受け取った。
サクちゃんもちょっと強張った顔で一度微笑むと、隣の席に戻ってくる。
「おつかれ」
小さく声をかけると、ちょっと笑ってくれた。
治君も一度にやりと笑った。
「はじめるぞー」
先生が教室に入ってくる。
年内最後の授業が始まる。今年は、それなりにいい形で終わりそうだった。
と、思っていた。
帰り道、あの人に会うまでは。
← ▽ → |