結局、犯人は奥様。共犯者がお嬢様。
 なお、三番目の被害者になるのは、おぼっちゃまの予定だったそうだ。
 実はあの夫婦は再婚で、お嬢様は奥様の連れ子だったらしい。
 犯行の動機は、あの地下牢。あの屋敷では昔、精神に問題があるものを隔離していたそうだ。座敷牢ってやつだな。
 そんな中、奥様の父にあたる人間が、精神に異常もないのに大旦那様に逆恨みされて地下牢にぶち込まれ、そのまま亡くなったから。逆恨みの理由が、奥様の母親に横恋慕したからっていうのがもう、どうしようもないね。
 奥様はそもそも復讐するつもりで家に入り込んだらしい。大旦那様を殺す仕掛けを作ったところ婚約者に見られて殺害。手毬唄に合わせたのは後付けらしい。
 おぼっちゃまが殺される予定だったのは、お嬢様に手を出していたから。胸糞悪いねぇ。
 そんなことを俺は全部終わってから、新聞報道で知った。
 あの事件が起きたのはそもそも俺の管轄ではないし、当事者だし、捜査は別の人間が行っている。推理の場に居合わせなかった俺に、真実を知る機会など訪れなかったわけだ。
 しかし、しょっぱいねぇ。その二人が共犯者なら、硯さんのことは簡単に解決する。ミステリにもなりゃしない。
 だから、名探偵の恋人になんか手を出しちゃいけないんだ。名探偵を私情で怒らせてしまったから。話の筋は塗り替えられ、綺麗な謎解きにはならない。解決が強引になり、犯人の扱いは適当になる。
 硯さんに手を出した段階で、今回の事件は連続殺人事件ではなく、名探偵と恋人の物語になってしまったのだ。と、言っても過言ではないだろう。ゲストキャラである犯人には、この理屈はわからないだろうけど。
 というか、これは理屈ではない。そういう現象なんだ。名探偵と絡んでしまった以上、発生してしまう現象。自然災害の前では、刑事だって無力だ。
 その名探偵様は、あの時の謎解きで、だいぶ無茶をしたらしい。カマをかける発言をして、おぼっちゃまを怒らせ、殴られていた。顔に盛大にあざを作って戻ってきて、俺の肝を冷やしたが、本人は、
「ま、これぐらいで済んでよかったよね」
 とへらへら笑っていた。あいつらしいといえば、あいつらしいその態度に、ちょっと安心したのは内緒だ。
 本当に、硯さんがいなくなってからのあいつは、あいつらしくなくて見ていて居心地が悪かった。
 その硯さんは、熱が上がって三日間入院したが、今は元気だ。怪我の方は、幸い頭も足も大きなものではなかったようだ。
 俺はいつもどおり、捜査一課の刑事として仕事を続けている。現場であいつに出遭わないように祈りながら。どんなしょうもない事件でも、名探偵が絡めば大事になってしまうのだから。
 長い付き合いの友人だとは思っているし、硯さんにとっては素敵な恋人かもしれない。だけど、あいつは疫病神の名探偵だ。
 そう思っている。


第二章 刑事の場合