「なんていうかさ……」
「ん?」
「二サスってお約束が多いよな」
「お約束? 名探偵も歩けば事件に当る、とか? ねぇ、私の探偵さん」
「……うん、まぁ、それもあるけど。一時間終わったところでさ、これ見よがしに刑事がホワイトボードで事件のあらましを説明したりさ」
「ああ、あるある。探偵役が犯人を追い詰めることに夢中になって危険な目にあったりとかもね」
「…………うん、そうだね」
「でも仲間が助けに来てくれるのよね〜。新聞記者が探偵役だったりすると刑事とか、知り合いの」
「それでがけっぷちでもみ合って、あきらめた犯人が聞いても居ないのにぺらぺらと動機とかしゃべりだしてさ」
「あんなやつ死んで当然だったのよ! なんて犯人が言い出したら、探偵役の見せ場よね。情のこもった怒りの叱責。
 ねぇ、私の探偵さん?」
「…………そうかもね」
「ああ、あと自殺しようとする犯人も説得するわよね」
「ああ、それはミステリの反則行為だしさ、自殺」
「そうよね、罪はきちんと法廷で償わないとね」
「うんうん、わかってるじゃん、茗ちゃん」
「崖じゃなかったらあれよね。名探偵、皆を集めてさて、と言い」
「そうだね」
「……」
「……」
「……」
「……あのさ、茗ちゃん」
「なぁに、私の探偵さん?」
「何をそんなに怒っているの?」
「何をそんなに怒っているのか? そんなこと、推理して御覧なさいよ。貴方、探偵でしょ?」
「……」
「わかんないの? それともわかりたくないの?」
 黙っている慎吾に硯さんがずいっと詰め寄った。
「貴方が」
 目を細めて手を伸ばし、慎吾の頭に巻かれている包帯に触れる。
「こんな怪我してくるからでしょうっ?」
 硯さんが泣きそうな顔をした。
 でも、彼女は絶対に泣かないのだ。
 彼女は慎吾のために涙を流して調子に乗らせることなんてきっとしない。
「私がどれだけ心配したと思っているの!」
「……ちょっと、失敗しただけだって」
「ちょっと? 冗談でしょ? 笑えない……。
 お願いだからもうちょっと気をつけてよ。貴方が名探偵をやりたがっているのは知っている。でもね、探偵が殺されてしまうミステリなんて駄作だわ」
「死んでないよ」
「知っているわよっ!」
 硯さんが声を荒げて、それから後悔したかのように顔をふせた。
 それをみておちゃらけた表情をしていた慎吾が眉をひそめた。
「ごめん、調子に乗りすぎた」
 そういって袖口から包帯の見える手で硯さんの頭を撫でた。
「気をつける、ごめん」
「貴方はいつも口ばっかりね」
 硯さんはそう言ったけれども、少し微笑んでいた。
 渋谷慎吾が口先だけで約束して、いざとなったらセーブのきかない、それこそ2サスの探偵役にぴったりな人間だと知っていても、硯さんは言わないわけにはいかないのだ。少しでも慎吾を戒めておくために。

「あ、あれだ。ニサスのお約束。探偵にはいい感じの協力者がいる」
 慎吾がそういうと硯さんがふふっと笑った。
「馬鹿ね」

二時間ドラマの法則