「ねぇ、なんで私のことが好きなの?」 「珍しい発言」 恋人の持つ煙草の煙に目を細めながら、結構な勇気を出して言った言葉に、返ってきたのは意外そうな声だった。 「なんかあった?」 灰皿の上で指が揺れて、すこうしだけ心配そうに呟かれる。 「同情?」 その言葉は無視して続ける。 「そろそろ落ち着こうって思ったときに現れてちょうどよかった?」 「あのさ、」 「顔?」 「顔って、自分で言うなよ」 「贖罪?」 「茗、」 「都合がいいから? 貴方がちゃらんぽらんするのにちょうどいいぐらいの収入があるから? それとも」 「茗!」 思いつく限り呟いていると、鋭く叫ばれて右手をつかまれた。珍しく怒った顔をしたあの人のすぐそばに、まだ長いままの煙草が落ちている。 「茗ちゃん、それ以上言うと本気で怒るよ」 低く、低く、吐き出される言葉。 「最初に茶化したのはシンの方でしょう?」 「いや、茶化すでしょ」 はぁ、と盛大にため息をついてみせて、ごめんね、といいながら私の右手を離した。 落ちている煙草を拾うためにしゃがみながら、 「面と向かって、いい年して、素面だし、なんでそんな甘いこと言わなきゃいけないのさ」 ぶつぶつと呟く。もったいないなぁ、などといいながら灰皿に煙草を押し付けた。 「いい年だから、素面だから、面と向かって言って欲しいんじゃない。お酒はいったときも、寝物語も」 「え、何その親父な言葉のチョイス」 「……。ともかく、信用性にかけるじゃない」 慎吾は小さく笑った。 「なんだ、寂しかったなら言ってくれればよかったのに」 「誰が寂しいなんていった?」 「言ってるよ」 微笑む。いつものように。 「心配になっちゃった? ごめんね」 そういいながら私の頭を撫でる。 「この点に関する原審の判断は結論において正当だね」 そう言って慎吾は小さく笑った。 「自分で好きだって、言えちゃうところが茗ちゃんのいいところだと思うけど、理由付けが間違っているようじゃしょうがないね」 「じゃあ、どうなるのよ?」 上目遣いで睨んでやる。 「可愛くて優しくて強くて、でも涙脆いし怒ると怖いけど、すぐ立ち直るし頑張ってたの本当に尊敬するし、ともかく」 彼にしては珍しく、優しく笑うと続けた。 「全部プラスな言葉で好きだよ」
この点に関する原審の判断は 結論において正当である 最高裁が原審(高裁)の判決に対して、結論は合っているが理由付けが間違っていると判断した時に使う言葉。 答えはあっているけど、式が違うぜ、の意 |