夕日を見ながら、ソルは尋ねる。
「なぁ、今日はさっさと、終わらせて帰ろうって言ったよな?」
「言ったわね。あんた、これからデートがあるんでしょ? ええっと、レーラさんだったかしら? 彼女と。だから、日が暮れる前に片づけましょうって言ったわ。」
「だったら少しは手伝え!」
 ソルは怒鳴り、剣を振り下ろす。
「そんな雑魚ぐらいあんた一人で片づけなさい」
「地獄に堕ちろ! ノエル!!」
「言っとくけど、あたしは地獄に落ちてもVIP待遇してもらえるから」
 ノエルは肩をすくめ、言い放った。

 国際警察軍所属のソル・フェリアとノエル・バライトがその日命令されたのは大通りに出るという化け物退治だった。ある種の雑務。
 数は多いものの、一匹一匹はそんなに強くなく、さっさと片づくものだった。

 二人でやれば。

「ノエル! 手伝え!!」
「これぐらい一人で出来ないようじゃまだまだ一人前とは言えないわよ」
「飛び道具持ってるやつが何言ってんだよ」
「最初から出来ないと思っているようじゃ、決して成功はあり得ないわ」
「真面目な顔して使いどころの間違ってるもっともなことを言うんじゃない!」
「自分の能力のなさを棚にあげて、他人をなじるなんて最低ね。それでも男?」
「お前は持ってる能力を少しは使え、そういうのを宝の持ち腐れっていうんだ!」
「あら、割と言葉は知ってるのね。力だけの馬鹿じゃなかったのね。そうね、手伝ってくださいノエル様って言ったら、手伝ってあげてもいいわよ」
「ほんとに地獄に堕ちろ!」
 そんなくだらない話の間でも、ソルは決して剣をとめようとはしない。そしてノエルは適度に関わりにならない距離を保ちながら、それを眺めているだけ。
 半分ぐらい片づいたところで、ついに弱音を吐いた。
「だぁ、もう駄目だ! 非常に不本意だが、手伝ってくださいノエル様」
「よろしい、手伝ってあげましょう」
「っていうかさっきから偉そうだがてめぇの仕事でもあるんだからな、あとで上に報告するぞ!」
 ソルの言葉には耳を貸さず、ノエルは持っていたライフルを構える。
「それじゃぁ、ちゃちゃっとやるから。何かあったら援護よろしく」
「ったく、了解」
 不承不承ながらも素直に頷いたソルをみて、少しだけノエルは微笑む。
 そして、
 ばばばばばばば
 音が響き、止んだ後には煙が漂っていた。
 二人は身動きをせずに、煙がはれる。倒れている化け物達。生きているものがいないことを確認すると、ノエルは銃をおろした。
「終わり。今回も、あんたは猫の手ほどしか役に立たなかったわね」
「黙れ、この悪魔」
「悪魔じゃないもの」
 ノエルは肩をすくめる。
「例え、こうして化け物を大量虐殺しても人はあたしのことを悪魔とは呼ばないわ」
 ソルは何かを言おうとして、結局やめた。代わりに思っていたことと違うことを言う。
「おれは人じゃないのか?」
「ええ、あんたは猫の手よ」
 そういって、ノエルは綺麗に微笑した。
 ソルが無言で剣を構えなおした。
 それから、叫ぶ。
「やっぱり、てめぇは地獄に堕ちろ!」
「あんた、これからデートなんでしょ? 先に行けば? 事後処理はやっておくわ」
 ソルの暴言を無視し、ノエルは言う。
「……頼んでいいのか?」
 驚いてノエルの顔を見つめながら、剣をおろす。
「今度、お昼おごりなさいよ」
「……ああ」
 一つ頷くと、ソルは走り去る。それを見ながらノエルは笑う。
「本当、猫の手だけれども、とってもいいやつよね。お人好しで子どもっぽくて。
 ……さて、あたしもさっさと片づけて、エルのところに行こうかしら?」

 もうすぐ、日は沈む。