ぴろろん、と音を立ててケータイが鳴った。 『隆二! ケータイ!』 新しい玩具を与えてもらった子どものように、ケータイをじっと眺めていたマオが焦ったような声をあげた。 「ん」 なんでもないように頷いて、それを手に取る。手が震えそうになる。 『メールね!』 横から覗き込んだマオが言う。新着メール一件と出ている。 「えっと」 『その真ん中のボタン押せばいいんだよ』 「わかってるよ」 本当にわかっていたってば。今押そうと思っていたってば。 そう思いながら、真ん中のボタンを押す。 エミリからの返事だった。開くとそこには長文がずらりと並んでいる。 え、さっきメールしたばっかりなのに、もうこの量の返信を打ってきたの? そのことに愕然とする。 若者、怖い。 メールの内容は、小さいつの出し方を懇切丁寧に教えてくれていた。ただ、ところどころバカにしたような言い回しも確認できたけれども。 そして、最後に書かれている。 「お尋ねの件ですが、赤いと三倍速いんですよ?」 三倍速い? 『赤い彗星だったのか……』 横からそれを見ていたマオが、驚いたように呟く。 え、なんで伝わってんの? 全く意味のわからない隆二をほったらかして、マオはなるほどね、なんて呟いている。だから何が? なにこれ、ジェネレーションギャップ? 困惑している隆二の顔をどう判断したのか、 『お返事しといた方がいいよ』 マオがくすり、と笑って言う。 『わかった、だけでも。小さいつ、使うしね』 戯けたように付け足す。まったく、余計なお世話だ。 そう思いながらも、なんとか苦労して、わかっただけのメールを打つ。 ああ、なんだろうこの達成感に疲労感。頼むから、嬢ちゃん、これ以上今日はメールしてこないでくれ。対応しきれない。 『おつかれさま』 マオが笑ったまま、隆二の頭を撫でる。なんだかバカにされている気しかしないが、今回は本当、バカにされても仕方がない気がするので何も言わない。代わりに、目の前のマオをじっと見つめる。 『なに?』 見られていることに気づいたのか、マオが小首を傾げる。 『今日もマオは可愛いよって? 知ってるー』 「言ってない、一言も」 両手を頬にあてて、巫山戯て笑うマオは、いつもどおりのマオだ。 Gナンバーの消失。それはマオとはきっと関係ないのだろう。きっとそうだ。 だって、マオはすでに規格外なのだ。こんなに自由気ままに動くのはGナンバーとしてはイレギュラーなのだと、最初の時にエミリが言っていたじゃない。 だから消えるなんてこと、あり得ない。 そう自分に言い聞かせる。 それでも、 「……なあ、体調とかどうだ? 妙に眠いとか、そういうこと、ないか?」 一応聞いてみる。 マオは、急に変な質問をされた、とでも言いたげな不思議そうな顔をしながら、 『女の子はそういうときがあるってテレビでみたよ』 とんちんかんな回答をかえしてくる。 ……また、そういうことばっかり覚えて。 うんざりため息をつく。 テレビに教育を投げっぱなしな俺がいけないんだよな、きっと。ちょっとだけ反省。 『眠くはないけど、ねー、隆二。お腹空いたぁー』 甘えたように喉を鳴らして、マオが隆二の右腕を軽く揺する。 「この前食べてなかったか?」 『でも空いたのぉ! だから、行ってくるね?』 軽く唇を尖らせてそう言うと、隆二から離れようとするマオを、 「あー、ちょっと待て」 引き止める。 なにもないとは思うけれども、万が一なにかがあったら困るから。心配だから。という理由は隠して、 「俺も行く。コンビニ行く、ついでに」 言い訳を付け足しながら立ち上がると、 『本当っ!? 一緒に来てくれるの? やったぁ!』 マオの顔がぱぁぁっと華やいだ。 |