ここは、どこだろう? どこだかわからない。ただ暗い場所に隆二はいた。 視線の先、僅かな光が見える。そちらに向かって歩き出す。 「……?」 視界の先に、人影。目を凝らす。 肩より少し長い綺麗な黒髪、線の細いシルエット。見覚えのある柄の、着物。 「茜っ」 名前を呼ぶ。叫ぶ。 人影は振り返る。隆二のよく知っている笑顔を浮かべて。 「茜っ」 駆け出す。 手を伸ばす。彼女の右手を掴み、 「あかねっ」 その瞬間、彼女は白い骨となり、闇の中へと崩れ落ちた。 喉の奥で悲鳴があがる。 『りゅーじ』 背後から舌足らずな声で呼ばれて振り返る。 「マオっ」 ふわりふわりと、居候猫が浮いていた。 よかった、マオはまだ居た。 「マオ……」 手を伸ばし、マオの右手を掴もうとすると、 『大丈夫だって言ったのに、嘘つき』 淡々とマオが呟き、その姿が掻き消えた。 掴み損ねた右手。 「っ、マオっ」 「帰って来るって言ったのに、嘘つき」 『大丈夫だって言ったのに、嘘つき』 「嘘つき」 『嘘つき』 声が責め立ててくる。 姿は見えないのに声だけが。 「だからちゃんと見とけって言ったのに」 別の声がどこかで囁く。 「京介っ」 声をあげても誰の姿も見えない。 「嘘つき」 『嘘つき』 「嘘つき」 やめろ、やめてくれ。頼む……。 『隆二の、嘘つき』 |