間幕劇 犬猫も三日飼えば恩を忘れず


 彼は自分の同類だと思っていた。
 恋人に帰って来ることを要求され、その約束を果たせない。果たさない。
 自分達は同類だと思っていた。
 ここから先の永遠の時間、お互いに、その約束にとらわれ、縛り付けられ、生きていくのだと思った。思っていた。
 でも、違った。あの人は待っていた。約束どおり、待っていた。
 あの二人の絆は、決して切れていなかった。
 彼が化け物でも、逃げ出しても、帰ってこなくても、自身の命が消えても、あの人はそんなことじゃ揺らがなかった。それすらも受け止めて、待っていた。
 揺らいだのは自分の心だった。価値観だった。人と化け物との間に生まれた絆もちゃんとあるのだと、知ってしまった。
 そして彼には、新しい同居人。それなりに、うまくやっているようだった。新しい同居人は、あの人よりも強いから、彼がまた道を誤ることはないのだろう。彼が一人になることは、きっともうないのだろう。そう思えた。

 同類だと思っていた。自分と同じだと思っていた。
 でも違った。
 過去に縛られているのは、今や自分だけ。彼は、先に進んでいる。進もうとしている。
 そんな彼を見ていると思ってしまう。自分もうまく出来るんじゃないかと。自分だってあの場所に帰ったら、もう一度上手く、生活出来るんじゃないかと。期待してしまう。夢を見てしまう。
 でも、泣いていた彼女の顔がちらつく。
 戻れない。
 約束してしまった。帰って来たら一緒に死ぬと。でも、彼女には生きていて欲しい。
 それに自分は、彼とは違う。化け物であることを、打ち明けられない。今までも、これからも。
 だから、約束は守れない。
 だから、帰れない。
 だから。

 だから、頼む。リュウジ。