京介は、駅の近くにあった公園で時間をつぶすことにした。ベンチに座り、一人のんびりとコンビニで買った団子を食べる。これがなかなかに美味しい。 ちらほらと、乳幼児を連れた母親が公園にやってくる。それを目を細めながら眺める。 『京介さんっ』 頭上からかけられた声に、少しのデジャヴを覚えながら京介は上を向いた。 「マオちゃんどうし……、どうしたのっ?」 軽くかけた声が、思わず大きくなる。視線の先に居たのは、くしゃくしゃに泣いたマオだった。 急に大声をだした京介に視線があつまる。さすがにそれが気になって、慌てて声を小さくし、 「どうしたの?」 手招きすると、マオは隣に座った。ぼろぼろに泣いた彼女の頭を撫でる。 「隆二は?」 『茜さんのとこ』 「ああ、お墓見つかったんだ」 『違うっ』 しゃくりあげながらマオが叫ぶ。 『違う違う違うっ、待ってたっ。あの人、本当に待ってたっ』 「待ってた? 茜ちゃんが?」 『幽霊になってまで、待ってたっ』 「……そっか」 二人の絆は、まだ切れていなかったのか。茜はそこまで隆二のことを思っていたのか。あの二人は人間と化け物の壁を越えたのだろうか。それなら、自分は。 『あたしっ、居られなくなっちゃうっ』 「……え?」 マオの叫びに、京介は思考を中断させる。 『あの人が幽霊なら、ずっと隆二と一緒に居られる。そしたら、あたしっ、あの家に居られない。もう居場所がないっ』 そうしてマオは膝をかかえ、そこに顔を押し付けた。 「マオちゃん……。いくら隆二でも、マオちゃんを見捨てたりしないよ」 いや、違う。 「隆二だからこそ、マオちゃんのこと追い出したりしないよ」 同族の中で、一番情が深いのが彼なのだから。 『だけどっ』 マオが顔をあげ、吠える。 『隆二が追い出さなくても、あたしっ、あんな顔する隆二と、あの人のところになんか居られないっ』 「……そっか」 それもそうかもしれない。 『もうやだ。謝りに行こうなんて言わなきゃよかった』 「……マオちゃん」 『……嘘だよ。謝りに来たのは、よかったと思ってるよぉ』 マオは、抱えた膝に顎をのせた。 『隆二、悲しそうだったから。辛そうだったから。自分のこと責めて。だから、謝りに行こうって言ったのは、後悔してないよ。だって隆二のこと、心配だったから。だけど。こうなるなんて、思ってなかったから』 「優しいね」 マオの頭をそっと撫でる。 「隆二のこと、考えてここに来たんだもんね」 『優しくないよ。知ってるもん。本当に優しい人は、こういう時に、こうやって喚かないもん。本当に隆二のこと考えてたら、大事な人と一緒に居られるようになってよかったね、って言うんだよ。知ってるもん』 だけどっ、と続けた声が、また一段と涙声になる。 『だけどっ、あたし、よかったねなんて言えない。あたしは、あたしが、隆二と一緒に居たい……』 そのまま顔を膝に埋める。 『……こんな風に我が侭だから、駄目なんだよね、あたし。いつも隆二を困らせて、迷惑かけて。だから一緒に居られなくなっちゃう』 くぐもった声。 京介はしばらくそんなマオを黙って見ていたが、 「マオちゃん」 その腕をそっと引く。マオの体が少し京介の方に傾く。マオが顔をあげる。 『……京介さん?』 涙に濡れたその緑色の瞳を正面から捉えて、京介はいつになく真面目な顔で問いかけた。 「なら、俺と一緒に居る?」 |