一条茜は、小さな民家に一人で住んでいた。小さなと言っても、一人で住むには広過ぎる。なるほど、部屋が余っているわけだ。
 こんなところで若い娘が一人暮らしだなんて、ますますわけありのようだ。
「ここ、どうぞ」
 何もない一室に案内させる。
「どーも」
「お食事は普通に摂られますか?」
「食べなくても死なないから気にしなくていい」
「……食べることは出来るわけですよね?」
「それはまあ」
「そう」
 茜は一瞬視線をさまよわせてから、隆二に戻すと小さく微笑んだ。
「じゃあ、作るんで一緒に食べましょう。たいしたものは、出来ないけれども」
「……なんでその結論になるかねぇ」
「一人の食事は寂しいから」
 当たり前のように言い切ると、待っていてと告げて茜はその場を立ち去った。
「……寂しい、ねぇ」
 なんとなく呟くと、小さなその部屋に倒れ込む。意地でここまで歩いてきたが、やはりまだしんどい。
 目を閉じる。せいぜいのんびりさせてもらうさ。

 そこから始まった茜との同居生活は、規則正しいものだった。
 毎朝決まった時間に起こされ、食事をとり、掃除を手伝わされ、散歩に連れて行かれ、野良猫に餌をやり、週に何度か先生のところに顔を出す。これの繰り返し。
 茜は臆すること無く、隆二を自分の規則正しい生活の輪の中に組み込んでいった。化け物相手なのに。
 そんな規則正しい生活も久しぶりだったので最初は楽しかったが、あまりにも単調な生活に一週間で飽きた。一人で不規則な生活をしていたときも特に何か毎日楽しかったわけではないのだが、規則正しい生活はより単調さを際立たせる。
「毎日毎日同じことの繰り返して飽きない?」
 ある日、連れ出された散歩の途中、隆二が行き倒れていたあの土手で茜に尋ねた。茜は心底不思議そうな顔をしながら隆二を見上げ、
「どうして? 同じ日なんて一度もないじゃない」
 心底不思議そうに答えた。
「……あー、そう」
 その答えがなんだかむずがゆくて、隆二は適当に返事をすると頭を掻いた。
 訳ありのようだが、心根は素直な娘だと思った。衣食住を提供してくれる変な小娘に、本格的に興味がわきだしたのはきっとこの頃。
 でもそのときは、ここまでにしておこうと、そう思っていた。深入りしない方がいい、と冷静に思っていた。もう少ししたらここから出て行こう。同じところにずっといるべきではない。愛着を持つべきではない。
 でも、もう少し。もう少し暖かくなるまではここで過ごしてもいいかなぁ。あの時助けた少年をはじめとする子ども達に、明日遊ぶって約束してしまったし、少なくとも明日まではここにいよう。そんな甘えでずるずると、規則正しい生活を送っていた。
 よくも悪くも、この生活を変えたのは、二人の死神の存在だった。