「子猫だから、抵抗力が弱かったんだ」 「……うん」 「だから、茜が悪かった訳じゃない」 「……うん」 「今度はきっと、元気に生まれてくるさ」 「……うん」 「だから、……もう泣くなよ」 今度は、彼女は答えなかった。子猫を埋めたその土の山の前に座り込み、彼女は泣いていた。 彼はどうすればいいのかわからずに、彼女の後ろに立っていた。 「……茜」 「……わかっているけど、でも。でも、やっぱりもっと他に何かが出来たのじゃないかと思うから。それにまだ、……まだ、名前すら付けてあげていないのに」 そのまま膝を抱える。 「……生き物は、いつか死して逝くものだ。自然の理なんだ」 「だから、諦めろというの!!」 彼女は振り返り、彼に向かって怒鳴る。 彼はいつもよりも眉を少し下げ、小さく諦めたように微笑んだ。ゆっくりと首を横に振る。 「違う。だから、黙って送ってやれって言いたいんだ。……それは、自然なことなんだから」 彼が言外に含んだ意味に気づき、彼女は結局、口を閉じた。 どうしていつもこの人は、自分のこととなると簡単に諦めてしまうのだろう? 彼の弱い微笑みを見ながら、彼女は思った。 そして、すすり泣きだけが響く。 少し経ってから、彼は言った。ためらって、言葉を選びながら……。 「……隆二」 * そして、彼は嘘をついた。少し、他の土地を見てくる。 彼が、たった一度だけその土地に戻ったときには、彼女はもう土の中だった。 |
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