「それじゃぁ、名前もわからない?」
『うん』
 ひとまず、彼のアパートまで戻ると再び質問をはじめる。
「あのなぁ、それじゃぁ名前を呼ぶこともできないじゃないか。なんて不便な……」
 ため息をつく。しょうがない、とりあえず何かつけるか。そう思って彼女を再び見る。
 よく見てみると、目も髪と同様で濃い緑色をしている。
「そうだな、どうやら迷子のようだし、緑がかった目とか猫に似ているから……」
『うん!』
 期待しているような目で見る彼女に、もったいぶって、言った。
「猫」
『まんまじゃん!!』
 自信満々に言った彼に、彼女は怒って言い返してきた。
『ちょっと、もうちょっとひねってよ!』
 冗談の通じないやつだ。自分の冗談は冗談に聞こえないことを知りながら、彼はやれやれと肩をすくめて再び彼女を見やる。
 その動作が彼女の眉を余計つり上げさせる。再び怒鳴られるよりも早く、やや早口で言った。
「マオ。それでいいか?」
 彼女は何か文句を言うつもりで開いた口をそのままに、あっけにとられて彼を見る。
 それから少し間の抜けた顔そのままに問い返してきた。
『マオ? えっと、それってどういう意味?』
「中国語で猫」
 安直であることに変わりは無い。
『マオ? マオ……』
 女はマオマオと呟きながら、部屋をくるくると踊り廻る。
「いいのか? 悪いのか? 気に入らないなら変えるぞ」
『いい、いい! 気に入った!!』
 マオはそういうとふわりと彼に抱きついてきた。
『ありがとう! ええっと……、』
 マオは眉をひそめると、彼から体を離し小首を傾げて尋ねてくる。
『貴方の、名前は?』
 ああ、そうか。名乗っていなかったことに思いあたり、彼は一つ小さく頷くと言った。
「神山隆二とでも呼んでくれ」
『とでも呼んでくれ? 何、偽名?』
 マオは意地悪く笑う。あんた、悪いことでもしたの? と目がいっている。
 隆二は一つ頷くと、言った。
「あいにく元の名前は、棄ててきたんでな」
『名前を、棄てた?』
 妙に淡々とした声でマオが問う。
「ああ」
 隆二はうっすらと意地悪く微笑んだ。
「俺もおまえと同じだ。人じゃない」
 昼下がりの光が部屋を覆う。
『貴方は、何?』
 窓際に置いたソファーに座るような格好でマオは問いかける。
「正確な俺を形容する言葉はない。吸血鬼、夜闇の帝王、それから……、」
 ここで隆二はいったん何かを言いかけ、首を小さく振りやめた。
「呼ばれ方は色々あるが全部ニュアンスが違うな。とりあえず俺は、それら全部をひっくるめることの出来る言葉『不死者』が近いと思ってる。文字通り、不老不死に近いってわけだ。もっとも、吸血鬼の伝承みたいに胸を貫かれたり、頭をやられたりしたら終わりだけれども、多分」
 試したことは無いし、これからもそんな予定は無いのでわからないが。
『へぇ〜』
 口をぽかんとあけてマオが呟く。外見だけ見れば、二十二、三歳の彼女に、その子どもっぽい仕草は似合わない。似合わないのだが、どこか溶け込んでいて強い違和感はない。それがなんだかおかしくて、思わず隆二は笑っていた。それをみて、マオはなによ! と眉をつり上げる。
 そんなマオをみてここで初めて、予想外にこの霊と慣れ親しんでいることに気づいた。まったく、しばらく同族に――例え霊と不死者じゃ肉体という決定的な隔たりがあるにしても――あっていなかったから、気がゆるんでいるんじゃないのか? 自分に対しそう叱咤すると、今度は隆二が問いかける。
「それより、おまえ、どうなんだ?」
『どうって、何が?』
「俺は何も喰わずともやっていけるが、おまえは何かを喰らう必要があるのか? 例えば」
 そこで一度言葉を切って、伺うようにして、尋ねる。
「人の精気だとか」
 マオは笑った。出来のいい生徒を褒める先生のような表情で。
『ご名答』
「人の精気を喰らう必要がある、と?」
 腕を組み、改めてマオを見る。
『ええ』
 それを聞くと立ち上がり、古新聞の束からいくつかを選び、抜き出す。
「ってことは、これあんたの仕業か?」
 踊っている見出しは、最近見つかった変死体の記事。目立った外傷もなく、病気でもない。一番近いのは「老衰」。所持品などから判明した人間の生前の姿からは想像もつかないぐらい、老いたその死体。「精気を抜かれたようだ」そう新聞に書いてあるのをみて、人ならざるものの仕業だろうと思った。
『……うん』
 やっぱり。小さく息を吐く。
 よかった、こちらに害をなすものだったならばどうにかしなければと、そしてそれは酷く億劫だと思っていたところだ。こいつが犯人ならば特に心配することもないだろう。
 マオはそのため息の意味を取り違えたのか、わずかにおびえたように尋ねてきた。
『あの、怒っている?』
「怒る? 何故?」 
 本当にわからなくて隆二はそう答えたのだが、マオもマオで何故彼がそういうのかわからないようだった。
『だって、あたし人を殺しちゃったし』
「別に他人の生き死になんてどうでもいい。人は生きるために動物を捕り、植物を採り、それを喰らう。おまえは生きるために人の精気を喰らう。当たり前のことだろう?」
 隆二がそう言い「食物連鎖」と締めくくると、マオは嬉しそうに笑った。
『ありがとう』
 なんでお礼を言われるのか隆二には少しも分からなかった。困惑している間にも、小憎らしい笑みを今度は浮かべる。
『でも、幽霊に対して生きるためはないんじゃない?』
「そうでもないぞ?」
 椅子に座り、話し始める。
「俺の不死者と一緒で霊というのも便宜的に俺が呼んでいるだけであって、もしかしたら妖精とか天使とか呼ぶやつもいるかもしれない。幽霊が死した人間だというのも眉唾ものだしな。幽霊とは磁気テープのようにその場に記録されたものだとかいう説もあるらしいぞ?」
 俺からしてみればそれもそれで眉唾だが、と付け加える。
「自縛霊のようなもの、下級霊ならその説もありだと思う。人の思いの強さで力を強めていくようなやつは。ただ、それだとマオは説明がつかないな」
『異端者ってことかしら?』
 にこりともせずにマオは小首を傾げる。その動作に含まれた意味がなんなのか、いささか疑問は残ったものの隆二は特に気にせずに答える。
「それをいうならば、人ならざる者である時点で俺もおまえも異端者だろう」
 そこまで言ってから、唇を皮肉っぽく歪める。
「異端『者』、じゃないな」
 マオはしばらく黙って隆二を見ていたが、やがて、ふっと柔らかく微笑んだ。
『それにしても、物知りね』
「お褒めにあずかって光栄です」
 片手を胸の前にあてて一礼する。それをみてマオは呟いた。
『ずいぶん慇懃な態度ね』
「心外だな。俺としては優雅な一礼といったところなんだが」
 マオがあからさまに不可解そうな顔をした。嫌みでも言うのかと思っていると、そのまま不思議そうに呟く。
『そうなの? あれが優雅って言うものなの?』
 心底不思議そうに言うので、隆二はその言葉の真意が掴めず、しばらくマオを見ていた。けれどもマオは、それに気づかず、相変わらず不思議そうな顔をしているだけだった
 そうしてお互い黙り込む。マオの方は未だ悩んだ表情をしているから、沈黙になっていることにも気づいていないのかも知れない。
 一人で居るときの沈黙はとても心地よいものだけれども、誰かが居るときの沈黙とはとても不愉快。あるいは、面倒。隆二は常々そう思っている。だから、そんな気まずい沈黙に咳払いを一つ。
「話を戻すが、あんた今までどこでなにやってたんだ?」
『さぁ?』
 肩をすくめる。長い髪が肩を流れていくのに、不覚にも見とれていた自分に気づく。
『さっきも言ったとおり、あたし最近の記憶しかないのよ。最近のここ一週間ぐらいのしかね。気がついたら空をふかふか浮いていたってわけ。それからは一人であっちいったりこっちいったり。さっきも、今日のディナーを探していたところだったのよ』
 そこまでいって、マオはむぅっとふくれた。
『そういえば、あんたのせいでディナー見つかってないじゃない』
「神山隆二。おまえ、さっき名前を聞いておいて名前じゃ呼ばないんだな」
 皮肉っぽく笑ってやると、相手もふんっと鼻で笑って返した。
『お互い様でしょ? あんたが付けた名前じゃない、マオって』
 髪をかきあげながら笑い、続ける。
『大体、神山隆二って偽名なんでしょ? 棄てたっていっていたけど、本当の名前ってないわけ? それと、どうして棄てたのかしら?』
 詮索してくるマオが、ひどく鬱陶しく感じられ、冷たく切り返す。
「マオだって本当の名前じゃないだろうが」
 そうやっていうとコーヒーを淹れようと台所に立つ。
「それに、どうして俺が拾っただけの迷子の子猫に名前を教えなくちゃいけないんだ」
 朝に沸かした、少しぬるくなったお湯でインスタントのコーヒーを淹れる。昔の知り合いでインスタントのコーヒーなんて邪道だ!といったヤツがいたなぁと思いながら。しかし、これはこれでなかなかいいと思う。何よりも楽だし。楽だと言うことは素晴らしいことだ。人生楽してなんぼ。
「拾っただけの迷子の子猫に、名前を教えて懐かれても困るんだよ」
 そういってコーヒーを飲む。……やっぱりお湯を沸かし直せばよかっただろうか? 少しばかりぬるいコーヒーに眉をひそめる。
 眉をひそめてから、コーヒーカップを睨んだままマオに声をかける。
「……おい?」
 てっきり何か言い返してくるかと思っていたのに、マオから反応はなかった。
「どうかしたか?」
 カップから顔を上げると、マオはうつむいてそこに浮いていた。
『…………。』
 小さく何かを呟く。
「あ?」
『せっかく、あたしのこと見える人いたと思ったのに!!』
 マオは顔を上げると怒鳴った。
『ずっと、ずっと、誰もあたしのこと見てくれなくて寂しくて仕方がなくって、やっとあたしのこと見える人がいたと思ったのに、貴方にとってあたしはただの迷子の猫なわけ!? そりゃ確かに、勝手についてきたり、勝手に居座ろうとしたりしていることは悪かったとは思うけど、そんな言い方ないじゃない!』
 マオが怒鳴ると同時に、やかんが倒れる、本が宙を舞う、新聞紙も飛び上がり、奇怪な音がして……。
 これはあれか? 「ポルターガイスト現象」? とか思っている間に皿が割られる。ああ、数少ない食器なのに。いや、あんまり食事をとらないから別に無くても構わないんだが。
 この状況下でそんなことを考えている自分は、やっぱり人間ではないのだろう。そんな考えに行き着き、隆二は思わず苦笑した。
「わかったから、落ち着けって」
 何が分かったのか自分でもわからないが、とりあえずそういっても、マオはいやいやをする子どものように、首を横に振るだけだった。
「おい、マオ!」
『そんなとってつけたように名前で呼ばないでよ!!』
 おまえは子供か!? マオの態度に、心の中でため息をつく。ため息をついている間にも部屋の中は荒れていく。これは片づけるのが大変かも知れない。頭の片隅で考える。散らかした本人は片づけられないというのは腹が立つ。
「マオっ!」
 斬りつけるように怒鳴ると、カップを置いて近づいていく。
 怒鳴られたマオは、一瞬体を強張らせて、近づいてくる隆二に対してただひたすらに首を横に振った。
『来ないでよっ!』
「……どうしろっつーんだよ」
 あまりに自分勝手な物言いに呆れてため息をつく。
 逃げようと思えば逃げられる。確かに彼女は今、窓に行く手を阻まれているように見えるけれども、忘れてはいけない。マオは幽霊なのだ。だから、逃げようと思えば逃げられる。それなのに、逃げないということは、口では何と言っていてもそばに来て欲しいということ。こんなときにまで冷静に、そんな判断を下す自分に気づき、苦笑しながらも隆二は歩みを止めない。
 そして、近づいてからやっと隆二はそれに気づいた。そして呆れた調子で呟く。
「……何も泣くことないだろうが」
 マオの目が涙をこぼす寸前なことに。それにしても、かなり不謹慎ではあるが、幽霊が泣くなんて初めて知った。
『泣いてないっ!』
 腕でぐいっと目をこするとマオは怒鳴った。その動作が、子供っぽく、どことなく愛らしく思わず口元をゆるませる。それをみて、マオはさらに眉をつりあげた。
『笑うなっ!!』
「いや、悪い悪い」
 片手を振ると、にらまれた。
『誠意が足りないっ!』
 なんか、今は何を言っても怒られそうだな。普段は冷静なくせに一度怒り出すととまらなくなっていた、昔の知り合いを思い出しながら、そう思う。それでも何もしないわけにはいかない。
「マオ、とりあえず部屋を荒らすのはやめてくれ」
『あたしより部屋の方が大事なんだっ!』
 なんだ、その安いドラマに出てくるような台詞は。脱力しかけたところを、首をふって持ち直す。
 それから「力」を使ってマオの手を握った。
「部屋とマオじゃ大事の種類が違う。それぐらい理解しろ。それともおまえは部屋と同等の価値でいいというのか?」
 そうやって言うと、ぐりぐりと頭を撫でる。そうやってからふと、自分はこのあったばかりの幽霊を大事に思っているのだろうか? と、妙な気分におそわれる。
『わっ! ちょっと何するのよ!!』
 そんな隆二の気持ちなど知るよしもなく、不意打ちにマオが大声を出す。けれども、怒鳴っているわけではない、少しやわらかい大声。
「俺はな、拾った子猫の世話は最後まで見るタイプなんだ」
 非難を無視してそう言うと、マオは上目遣いにこちらを見てきた。
『……そうなの?』
「ああ」
 もっとも、拾ったのは自分ではなかったが。そしてあの猫は拾ってすぐに……。思い出した記憶がなんだか不吉なものを意味している気がして、頭から追い出した。あれは子猫だった。だからであって、今は違う。いくら猫のようでも、マオは猫ではない。
 マオは隆二の胸中など知るよしもなく、安心したように床に座り込んだ。同時に宙を舞っていたモノも下へ落下する。
 がっしゃんと音を立てて、いれたばかりのコーヒーカップが割れたことにはとりあえず目をつむろう。例え、それがゆっくりと絨毯に新しい模様をつくっているとしても。
「まったく、そこまでムキになることもなかっただろうが」
 頭を撫でたままそういうと、マオは泣きそうな顔をして答えた。
『だって、寂しかったんだもん』
 スカートの裾をぎゅっと握って続ける。
『やっと、わかってくれる人がいたと思ったのに』
 隆二は手を止めると、マオと同じ目線までしゃがみ込む。
「あのなぁ、ただの言葉遊び。売り言葉に買い言葉だろうが。そんなんじゃこの先やっていけないぞ」
 そうやっていうとマオが怒ったように隆二を見た。文句を言われるよりも早く、言葉を続ける。
「でもまぁ、さっきのは失言だったな。謝る」
 そうやって頭を下げると、マオはふいっと横を向いた。そして横目でちらちらと隆二を見ながら言う。心持ち唇をとがらせながら。
『……そこまでいうなら許してあげてもいいわよ』
 そこまでというほど、謝ったつもりは毛頭ないのだが、気がそれで済むのならばいいだろう。そう思い、頭を撫でながら続ける。
「まぁ、拾った以上棄てたりしないから安心しろ」
 立ち上がりかけてから、マオの手を掴んだままのことに気づく。隆二の視線を追うようにして、マオが捕まれたままの左手を見る。そして不思議そうに首を傾げた。
『ねぇ、隆二。……あ、隆二って呼び捨てでよかった?』
 一つ頷く。
「下手に気を使われても疲れるだけだ。」
 そう、と呟いてマオは話を続ける。
『ねぇ、どうして隆二はあたしにさわれるの?』
「『力』を使ってな。」
 そういって手を目の前にかざす。
「不死者としての『力』、霊力みたいなものかな? それを手に集中させてマオに干渉できるようにしたんだ」
 マオは顔をしかめる。言っている意味がわからないといったところだろうか? でも説明するのは苦手だし、第一感覚的なものを上手く説明できるだろうか?
「なんていったらいいのか? マオにさわれる手袋をつけたってところかな」
 マオはしばらくしかめっ面をしていたが、
『……よくからないけど、隆二はあたしにさわれるの?』
 考えるのをやめたらしく、やけにあっけらかんと結果だけをマオは問い返してくる。それに苦笑しながら答える。
「『力』を集めたときだけだ。『力』を抜けば、もうさわれない」
 そういって『力』を抜いた手で、マオに触れる。手はマオの体を通り抜けて、壁に触れた。
『へぇ……』
 感嘆の声をマオは上げる。
「こういう形で役にたったのは初めてだ」
『そうなの?』
「ああ、自分以外の人ならざるものにあうことは多々あったんだが、マオみたいな肉体を持たず、なおかつ自我をちゃんと持っているのは初めてだ」
『それはほめ言葉として受け取っていいのかしら?』
「さぁな」
 それだけいうと、散らかったものをかたし始めた。
 せっかくコーヒーをいれたのに。茶色く染まった絨毯をにらむ。さて、この絨毯はどうするか。いやこのシミも味と思えば……。別に誰かが来るわけじゃないんだし。
『……あの、隆二?』
「あ?」
 隆二が絨毯について真剣に考えていると、マオが後ろからおずおずと声をかけてきた。振り返ることなく、言葉だけを返す。
「なんだよ?」
『……その、ごめんなさい』
 予想もしなかった言葉に思わず後ろを振り返る。
 後ろではマオがスカートの裾を握って、横を向きながら続けた。いじっぱりの子どもが、泣かせてしまった友人に言うかのごとく、続ける。
『その、……ものとか割っちゃって。あの、その、……ごめんなさい。追い出したりしないで……』
 隆二はマオの横顔をしげしげと眺めながら、思わず笑い出してしまった。マオが隆二の方に視線を合わせ、真っ赤になって怒鳴った。
『な、なによ! せっかく謝ってるのに!!』
「いや、悪い悪い」
 咳払いでなんとか笑いをひっこめると、マオの機嫌を直すためにも言った。
「なんていうのか……。あれだよな、かわいいな、おまえ。」
 隆二としてみれば、あくまでマオの機嫌をなおすために言った言葉だった。本音がなかったこともないが――本音八割お世辞二割。
 その言葉にマオが赤かった顔をさらに赤くして、意味もなく両手を動かした。ばたばたと。
『な、そ……、』
 口を金魚のように開けたり閉めたり。
 それを数十秒隆二は黙ってみていたが、やがて口を開き、言った。
「……おまえ、照れてるのか?」
 図星を指され、マオは一瞬口を開けたまま固まったが、すぐに
『そ、そんなわけないでしょう!! ばか!』
 そうやって、顔を真っ赤にしたまま怒鳴ると、壁を抜けて隣の部屋に行ってしまった。隆二はそれを見送って、もう一度、今度は声をあげて笑った。

 そのような経由で、迷子の幽霊マオは、不死者の神山隆二の家に居候することになったわけである。
up date=2004