私は貴方と初めて逢った土手で、今日も空を見上げていた。
 私は今、此処から動けない。もう何年も、何十年も、此処に居る。
 でも、そんなこと苦ではなかった。
 貴方と別れて暮らした、あの三日間の悲しみや寂しさに比べたら、何も苦ではなかった。
 きっと、私と別れて、どこかで私の死を知って、悔いているであろう貴方の胸の内に比べたら、何も苦ではなかった。
 土手に来る人々を、毎日毎日眺めながら、私はずっと考えていた。
 貴方が帰ってくる日の事を。貴方が帰って来たら、何て言おうかと。どうしようかと。
 ずっと、ずっと考えていた。
 今日も、同じ様に空を見上げていて、
「……茜?」
 ふいに背中にかけられた、声。聞き覚えのある、声。怪訝そうな、声。
 どれだけ時間が経っても、聞き間違えることのない、声。
 もうずっと長いこと待っていた、声
 貴方の、声。
 もう動いていない私の心臓が、とくんっと、一つ跳ねた。
 私は一つ息を吸うと、振り返った。
 驚いたような顔をする貴方が見えた。
 もうずっと、ずっと、貴方が帰って来たらそうしようと思っていたとおりに。何度考えても同じ結論になったとおりに。
 私は、微笑んで、告げた。
「お帰りなさい、隆二」