「はい」
『あ、もしもし、渋谷さん?』
「すみちゃん? どしたの?」
『迎えにきてあげてください』
「……はい」

 そんな電話をもらったから、素直に駅前のいつもの居酒屋に行く。やっぱり、べろんべろんに酔った茗ちゃんがそこにいた。弱いくせに飲むから。
 ちょっとごねて、それから抱きついてきて、そんでもって泣き出す、っていうお決まりのパターン。すみちゃんにはいつも多大な迷惑をかけていると思う。本当ごめん。
 ふらふら、千鳥足の茗ちゃんをつれて、自宅に連れかえる。別に妙な下心があるわけじゃなく、っていうか別に恋人なんだからあってもいいんだろうけど、駅から近いのは俺の家の方だから。茗ちゃん家は遠いんだよなぁ、ちょっと。
「オカエリ!」
「ただいま、きゅー。静かにな」
「ゴンベイ!」
 とりあえず、ソファーに座らせる。水でも飲ませようと、立ち上がると、ぐぃっと腕をひっぱられた。ちょっと、転びかけた。
「茗」
 彼女は答えないでけらけら笑ってる。
「茗、おまえなぁ、あんまり飲むなよ。自棄酒は身体によくないぞ」
「なによぉ」
 彼女は唇を尖らせて抗議する。
「身体に悪いものほど摂取したがるのが人間なのよー、シンの煙草といっしょー」
「はいはい」
「ちゃんと聞いてよー」
 更に腕をひっぱられて、彼女の目の高さまでしゃがんだ。
「恋愛もねー、絶対一緒よねー、絶対こんなの身体によくないものー。ねー」
 ねー、とか可愛らしく言われてもねぇ。
「脳内で麻薬物質が作られるのよ、あはは」
 ああ、酔ってる。完璧酔ってる。素面の彼女はこんなんじゃない。
「でもね、だから摂取したいよねー」
 ねー、とまた可愛らしく首を傾げる。
 そのまま、がっしりと人の頬を固定して、ゆっくりと顔を近づけてくる。
「あ、あの、硯さん?」
 彼女は目を閉じて、そして、
 かくん、と首を落とした。寝てる。
 ため息をついた。なるほど、恋愛は心臓にも悪い。
 起こさないように抱き上げて、ベッドへ運ぶ。毛布をかける。すやすやと眠っているのを確認すると、自分の分の毛布を抱えて寝室を後にした。
 まぁ、ソファーで寝るぐらいなんでもないですよ。酔った勢いに負けることに比べたらそれはもう。遊びじゃないので、それはもうしないと決めたのです。と、誰にもともなく言い訳して、ソファーに横になる。
 明日の朝、ちゃんと茗ちゃんを起こさないと、すみちゃんに怒られる。
「おやすみ、きゅー」
「ゴンベイ!」
 毎度のことながら誰がゴンベイなんて教えたのかなぁ、なんて思いながら目を閉じた。


身体に悪いものほど