「幽霊なんていないんだよ。もし、いるという人がいるならば、それは白昼夢みたいなものさ。勘違い、とかね」
 なるほど、なるほど。それは面白見解かもしれない。
 でもね、貴方の後ろに何か居るわよ、といってやりたい。とても。
 それを言ったときの彼の私をみる顔がどうなるか、とても楽しみだ。
 頭の固そうな、典型的な生真面目君。医学部だっていうから、頭いいんだろうけど、その半端なリアリズムと理詰めで、ふったんでしょうね。どろどろした女の怨念が形をなして、貴方の後ろに憑いているわよ? 昨日今日の話じゃないし、最近体調悪くない? 一体何人振ったの?
 顔はいいし、金もあるから、ひっかるのもわからなくないけどね。
「なぁ、そう思うだろう? 全部、頭のおかしい連中の白昼夢」
 白昼夢はいいとして、頭がおかしいはないんじゃない?
「そうね」
 私はゆったり微笑んで、コップに口をつけた。
 そもそも、人数あわせできた合コンで、何で私はこんな話を聞かされているわけ?
 周りの女の子も皆白けてる。
 これだから、インテリは。顔が良くて、金もあっても中身がこれじゃね。
 彼の肩でうめく女たちを見ながら、心の中で十字を切った。全然、流派が違うけど。流派? まぁいいや、私自身は無宗教だし。
 彼はそのうち酷い目に遭うだろう。でも、依頼もされていないのに祓ってはいけないのだ。建前上は。
 その建前に珍しくどっぷりつかりながら、私は思った。知らないのは幸せなことだ。
 白昼夢だと信じていればいい……。